世界の輪郭に溶ける

社会とうまく馴染める距離を探しています

この世界は私たちの生まれる前から存在している。


「−ところで、秦野さんにとって円安というのは、ポジティブなニュースでしょうか。」

 

「どうなんでしょうね、ポジティブなニュースじゃないでしょうか。変化が起きるというのは私たちのような小回りの利く業者にとって、いいことだと思いますよ。いえ、いいことにする必要がある。といったところでしょうか。」

 

「まさに。私もそう思います。どちらかといえば、ニュートラルなニュースと呼ぶべきでしょうか。私たちが事業を始めてから、ようやっと、マイナスではないニュースです。」

 

ロックダウンから始まり、何一つうまくいかない営業活動。2年超におよぶ長期化に加えて、ウクライナ戦争。
ポジティブなニュースが何一つない創業フェーズだった。

そして円安。

 

円安とはなんだろうか。
そもそも、円安とはなぜ起きるのだろうか。
なぜ物価は上がるのだろうか。なぜ一律でこのタイミングで、値上げが行われるのだろうか。


私たちにとってそれはニュースだった。今自分たちの置かれているマーケットは、社会情勢に色濃く反映されるマーケットである。

 

そもそも市場とはなんだろうか。経済とは?業界とは?
そのそれぞれは果たして本当に独立採算で成立しているんだろうか。そうではないとわかっていたとしても、それぞれの業界の相互影響や因果関係を、どこまでの解像度で見通すことができているだろうか。どこまでの解像度で、国内-国外の市場を捉えることができているだろうか。円安によって、何が起きるだろうか。起きると思っていることは、本当に起きるのだろうか。円安がもし仮に操作可能だったとした場合、どんな目的があって円安にするのだろうか。

 

「そうじゃないんですよ、わかりますか。何かを知った気になるのは100年も1000年も早いんです。ではあの目の前に見えている新宿御苑がありますね?あれはいつからありますか?あれはどんな大義名分があってこの新宿という都心に今も残されているんでしょうか。あれを残すという決断をした背景には、どんな利害関係があって、どんな言い分があり、どんな合意形成によって今、残存しているんでしょうか。代々木公園も、昭和記念公園も一緒です。そういったものを私たちは何も知らない。ただ、その土台の上に生きることが許されている。そうですね、この建物は、あそこのビル群は、いつから存在しているんでしょう。誰が、どうやって作ったのでしょうか。どんな人が建築に携わったのでしょう。材料は?どこから調達しているのでしょうか。道路はいつ建設されたのでしょうか。なんの不便があって作られたのでしょうか。幹線道路はどのような設計思想に基づいて構築されたのでしょうか。私はなにも知らない。なにも知らないはずなんです。」

 

究極的にいえば、このコロナという騒動も、戦争も、誰のどんな立場だったらネガティブなニュースなんだろうか。戦争が無くなった試しがない。そもそも他国に戦争があってしまっては平和ではないんだろうか。平和である必要は本当にあるのだろうか。

 

「ただし、今自分たちの生活にいったんの不便がないということには、もう少し感謝をしてもいいんじゃないんでしょうか。暑かったら冷房が効いていて、寒かったら暖房が効いている。お腹が空いたらご飯が食べられる。道端に捨てられていたゴミはいつの間にか無くなっている。そういう当たり前のことに、もう少しだけ目を向けてもいいんじゃないんでしょうか。そういう当たり前を抜きに、自分の都合ばかりをピーピーピーピー言っていて、恥ずかしくないんですか」

 

私たちは、この世界ができあがった後に生まれている。
私たちの意思とは全く関係のない、歴史的な因果関係を社会は包み込んでいる。

そうした因果関係を全く無視するような言説は、はっきり言って綺麗事ですらない。

ただの自己都合ポエムだ。

 

「福岡の地域に私たちのターゲットとなるお客さんが多いかもしれない仮説が立つ理由は、博多という土地柄が中国朝鮮半島との交易が盛んになっていた地域だからみたいだね。そこに流通が存在しており、問屋・問丸といった商人が増えていった。戦後、そこに新幹線が開通したもんだから、人流ができ、結果として博多天神はコンパクトだけどものすごいサイズの商業施設が立ち並ぶような都市になっていき、小売・卸業のメッカになったみたい。」

 

東京・神奈川・阪神・北九州といったように、港湾は重要だ。
ただし、港湾と闇は密接に結びついている。

 

 

「今治タオルと有田焼、南部鉄器といった鍋物、伝統工芸と言われるような商材は、どこも大体同じような市場環境だ。国内市場に流通している商品の8割が中国産で、8:1:1の比率で、今治、泉州になっている。なぜそもそも今治や泉州がタオルの名産になったかっていったら、繊維素材が資源として産出しやすい気候環境だったからだね。肥沃な土地にはそうした名産物が存在する。鉄製品も、古くから鉱山が近くにある土地柄で、鋳造工場がその近くに建設される。そのような因果関係がその産業を支えているということを自分たちはどうやら無視できないみたいだね。地球資源を中心に、社会は土台作られている。農林水産・工業の土台には資源が必ず取り巻いており、それが自分たちの環境だ。それを全体として経済が成立している。」

 

 

私たちは今、EC業界に特化して事業開発をおこなっている。EC業界といえど、もう少し広義にいえば製造業界だ。製造業界・卸業界・小売業界・・・
古く長く、太いサプライチェーンマーケットは、製造業だけで国内GDPの1/4を占める。

 

 

たまたま奇跡的な生き残り方をして、webマーケティングの支援をおこなっていく過程で業界の事業検証を繰り返していくうちに、EC領域だけ有意に受注率が高かった。その要因を「マーケティング活動によるレバレッジがかかりやすい領域」とみなした。

ひょっとするとこの一連の流れも、歴史的な因果関係なのかもしれない。

 

 

 

自分たちは最初っから事業領域にこだわるようなことはしなかった。なぜならば、「強固なキャッシュフローを構築し、その事業単体で100億円以上のポテンシャルを持っていて、その生み出た利益を元手に資本集約的なビジネスモデルを再構築していく」という初期戦略にこだわっていたからだ。

 

「100億円までは下積みだから、頑張るよ。それに、10期で100億円に到達できれば自分はまだ37歳だ。そっからあと2回はチャレンジができる。」

10期で100億円。もしくは1億ドル。到達の難しい目標の中でも実現可能なゴールを考えた。

「時価総額になんかこだわってないよ。どうでもいいだろそんなこと。つまんねえよ、時価総額なんて。もう少し手触り感のある目標の方が、ずっと楽しい。そもそも意味わかんねえよ、マザーズ市場でPSRの10倍目指すよりPSR1倍で100億の方が遥かに実現性ある。そういう意味わかんないメカニズムに一喜一憂する時間が勿体無いわ。そもそも俺、キャピタルゲイン興味ないし。だから投資も、投機もやらない。自社の事業でない限りね。そんなことしてる暇があるんだったら自社の事業の業績に向き合えよって正論にどうやっっっても勝てない。それか、スプラトゥーンをやるかだね。」

 

 

焼け野原になった新宿の、幹線道路を耕す働き手を思いたかった。

 

「10期で100億、小気味いい目標感だよね。でもこれも10兆円企業とか1兆円企業とかのビッグマウスと一緒みたいな扱いになるのかな。自分は根本的に真面目で、堅実で、同じことに長く取り組むタフなタイプだと自覚しているんだけど、そういうふうに映らないとしたら心外だな。うちにはさ、15期分のBS計画があるじゃん?それの年率成長率をみていくとしたらさ、5期連続で倍々成長しないといけないわけだよね。その後も140%とか130%とかの急成長。めっちゃきつくない?だから3期目とかさ、なるべく早いタイミングで300%とか400%とか出しておかないとあとがきついよね。でも短期業績を追ってギリ300%になってもその後の倍々成長を毀損させるんだったら意味がないからね。ちゃんと、後続の数値に悪影響にならないような数値作りをしていかないといけないわけだ。ビハインドした分をあとになって巻き返すのは、今頑張るよりもきつそうだ。そうなると、どう考えてもビジネスモデルを工夫するしかなくない?」

「でも、計画はすでにある。モデルもある。チームも仕上がってきた。最強のチームだ。組織づくりの方針も決まっている。採用力もある、あとなにが足りない?やり切る?想定外に対処する?覚悟をすること?本当に足りないことはなんだろう。自分は今の計画が少しでも進捗しないとめちゃくちゃ焦るな。でも4月はだいぶ持ち直したんじゃないか。そういう経営の仕方をしている。しっかり地に足つけた経営をしていると思う。」

 

 

 

「どうしてみんな、プラットフォームがあるところにまた新しいプラットフォームを作ろうとするのでしょう。独占的であればあるほど利用価値が高まる性質を持つビジネスに対して、同様の力学で挑んでも返り討ちに遭うだけです。だけど、プラットフォーマーの外側にプラットフォームを生み出すことはできますよ。どうしてみんなそのことに心血を注がないのでしょうか。本気で考えてるんですか?」

−みんながあなたみたいに100億円の売上を作れるだなんて思っていないんですよ。

 

ええ、そうだったら掲げてることを今すぐ撤回しなさいよ。お金持ちになりたいとかにしたほうがいい。恥ずかしいな。

 

 

 

−どんな会社に転職するの?社長はどんな人なの?って聞かれた時は、「社会を変える集団の、台風の目になっている人」って答えてる。こういう人が社会を変えていくんだって思うって言うとよく、会ってみたい!って言われる笑

 

「儲からないことをやるために、儲かることをしないとね。従業員やみんなを守りたかったら、稼ぐことから逃げちゃだめだ。本当にやりたいことっていうのはなかなかすぐにはできないもんだね。」

 

「自分はこれから10年20年に降りかかる地獄のような痛みも、焦げ付くような裏切りも、誰かにとっては悪魔のような決断も、全部覚悟した。もうわかったんだ。もしかしたらそういうことをやらないといけないって。誰かがやらなきゃいけない時に、やる人がいるとしたら、自分なんだと思った。自分はもうそれを選んでいる。相当ウダウダしたけどね。だから、もう大丈夫。前に進むことができると思う。」 

 

きっとこの発言のことを言ってるんだと思う。

 

 

 

−この人にだったらついていきたいと思った。もしこの人がはちゃめちゃな魔王みたいになったとしても、この人が誰よりも考えて、誰よりも悩んで、そう言うんだったらそっちのほうが正しいんだろうなって思う。

困ったな、できればそうなりたくないんだけど。笑

 

 

−自分たちだったら楽天を超えられます。きっと。

それは無理だと思う笑

 

 

 

みんな僕に期待しすぎだ。そんなに強い人間じゃない。強くあろうとしているだけだ。
困ったことに、最近は自己評価よりも他者の評価の方が高い。

でもとてもありがたいことだと思う。これから拡大のフェーズに入る。長い長い拡大のフェーズに入る。そんな突入期に今のメンバーで迎えることができ、自分はもう満足している。この先どんなことがあっても、なにか後悔することなんかないし、自分は幸せだったといえる。何が起ころうとも、最も楽しく儚いフェーズを予感している。

 

「この世界は自分たちが生まれる前から存在していて、その歴史的な因果関係は、当時の最善を選択し続けているはず。そう考えると、歴史というのは過去の選択の連続と捉え直すこともできる。もしそれを理解することができれば、自分たちはもしかしたら歴史を選択することができるんじゃないだろうか。そうだとした時に、僕たちはどんな歴史を選ぶんだろうか。

ここから先の未来は、地理的条件による因果関係では成立しないような世界だ。そのような世界にあって、自分たちの生活環境や、事業環境は、有形商材の今後は、どのように変わっていくのか。きっと限界費用に近づいていく。物の価格が下がっていくというのは何も悪いことだけではない。見方を変えれば、それはモノの価値が下がっているんじゃなくって、お金の価値が下がっているということだ。

それがいいことなのか、悪いことなのかはよくわからない。それに、善いとか悪いとか、もうどうだっていいんじゃないかって思う。何かが前に進んでいるかどうかのほうが、自分にとっては大切になっちゃったよ。社会は今もなお、とても大きな方向に向かっている。その未来が善いか悪いかなんて、誰にも分かりようがない。変わりゆくことだけが決まっている。その未来を自分たちで選ぶことができるかもしれないんだったら、最も残り得るものが未来になるんだったら、それをしたいと思う。」

 

 

 

−この方も、結構な施設数を観ているはずなので、選んで頂き有り難いことです!!

 

「1つ1つの成果に愉快な報告を送ってくださる取引先に恵まれることができて、とても有り難いことです」

と僕は言った。